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[めいてつローカーボ生活] 医師 灰本先生のコラム 9

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“肥満パラドックス”を知っていますか? その1
肥満パラドックスとは

パラドックスとは矛盾していることを意味しています。肥満パラドックスとは、やせた人も太った人も病気になりやすいが、生き残るのは太った人でやせた人は死亡リスクが高くなるという考え方です。わかりやすく言うと、肥満の人は病気にはなりやすいが、いったん病気になっても耐える力があってなかなか死なないという意味になります。

実際にそんなことが起こるのでしょうか?肥満パラドックスは「肥満は痩せより長生き」という新しい考え方なので「肥満はだめ、やせなさい」というメタボリック症候群と対極にあります。肥満パラドックスは医師の間では少しずつ浸透し始めていますが、一般の方々にはまだほとんど知られていません。この肥満パラドックスという考え方は、今後世界を席巻して新しい医学の常識となるにちがいありません。


肥満パラドックスの例

糖尿病では肥満が長生きか、やせが長生きか?という質問を医師をも含めて100人に問うと、ほぼ全員がやせに決まっていると答えることでしょう。ところが、人体はそれほど簡単ではありません。

図は韓国で行われた130万人という大規模な住民を9年間という長期間追跡した研究結果で、2017年12月に発表になりました(Clinical Epidemiology 2017:9 667–678)。つい、3か月前のことです。これほど大規模な研究は世界的にも例がありません。この研究の目的は①糖尿病の発症と体重の関係、②糖尿病患者の体重と死亡の関係です。

体重は身長の影響を大きく受けるので、肥満を世界的に比べるときにBMI(body mass index、肥満指数)を使います。BMI=体重kg÷(身長m)÷(身長m)で計算します。私は体重63kg、身長165cmなのでBMIは23.1となります。

グラフはBMI別に9年後の糖尿病発症リスク(糖尿病のなりやすさ)を見たものです。130万人のなかから9年間に10万人の糖尿病が発症しました。BMI 16~18.4の最も痩せた人からBMIが増えるほど右肩上がりに発症リスクは直線的に上昇していきます。その結果、BMI 32.5~34.9の肥満(私の身長で90kg以上の人)はBMI 16.0~18.4の痩せた人(私の身長で50kg以下の人)に比べておよそ6~10倍も糖尿病発症リスクは上昇しています。


これは常識的な範囲で誰もが予想できる結果です。ところが、次に糖尿病を発症した10万人だけを追跡してBMIと死亡リスクの関係を見た結果が次のグラフです。グラフは先ほどのグラフとは真逆で右肩下がりとなっています。BMI 30以上の肥満の糖尿病患者の死亡リスクを1.0とするとBMI 16.0~18.4のやせた糖尿病患者の死亡リスクは1.5となり、50%も死亡が増えているのです。


やせは早死にしやすく、肥満は長生き

この研究の結果は肥満パラドックスの本質をきわめてよく示しています。つまり、肥満は糖尿病になりやすいが、糖尿病になった患者を追跡すると早死にするのはやせた患者であって肥満の患者は長生きするのです。

肥満パラドックスについては1999年頃からおびただしい数の研究論文が発表されています。そして、驚くべきことに肥満パラドックスは急性肺炎、透析、肺気腫、心不全、心筋梗塞、癌、脳血管障害などほとんどの急性および慢性の致死的な疾患で成立することが次々に明らかになっていきました。もっとも研究が遅れたのは糖尿病領域です。糖尿病だけはきっと肥満が早死にするという先入観からか、肥満パラドックスという概念が登場してから20年もかかって最後になってしまいました。この韓国からの研究成果は私にとっては「糖尿病よ、おまえもか」と感慨深いものがあります。

なぜメタボリック症候群を真っ向から否定する肥満パラドックスが登場したのでしょうか。それを知ることは、医学が陥りやすい弱点や医学研究はどのように進歩していくのかを知ることでもあります。

次回から数回にわたって詳しく解説していきます。



コラム著者 灰本 元 氏 (はいもと はじめ)

医師、灰本クリニック院長、NPO法人日本ローカーボ食研究会代表理事
1953年山口県生まれ。1978年名古屋大学医学部卒業。関東逓信病院(現 NTT東関東病院)内科レジデント、名古屋大学医学部大学院(病理学)、愛知県がんセンター研究所病理部、中頭病院内科(沖縄市)などを経て、1991年に愛知県春日井市に灰本クリニックを開業。診療の特徴は高血圧、糖尿病、ローカーボ食、癌の診断、漢方医学など。

NPO法人日本ローカーボ食研究会は、ローカーボ(糖質制限、低炭水化物)食による糖尿病・メタボリック症候群の治療を安全に、そして有効に実施する為に2011年3月に灰本氏を中心に設立されました。ローカーボ食の科学的な研究、海外文献の紹介、定期的な研究会開催などを行い、それを基に医療機関だけでなく食品・健康機器関連会社、製薬会社、一般の患者さんへ啓蒙と普及を目的としています。ローカーボ食の有効性だけでなく弱点や課題も含めた総合的な科学情報を提供します。現在、東海地方を中心に10の病院・クリニック等が協賛医療機関として登録しています。

灰本クリニック
http://www.haimoto-clinic.com/

日本ローカーボ食研究会
http://low-carbo-diet.com/


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